2021年度開催
第61回治山研究発表会・第59回治山シンポジウム
日時
2021年10月28日(木)~11月26日(金) Web特設サイト公開期間
10月28日(木)~11月9日(火) 質問受付期間
11月19日(金)~11月26日(金) 質問回答掲載期間
主催
治山研究発表会・治山シンポジウム実行委員会
内容
- 特別講演
演題:「地球観測衛星データの活用について」
- 研究発表
治山・地すべり計画、森林造成・整備、保安林・林地開発許可制度、木材利用、環境調和、新工法、効果評価、PR等に関すること(計40課題)
※全ての発表課題名の一覧及び発表内容をまとめた研究発表論文集は、会員ページに掲載しています。
- 治山シンポジウム
テーマ:「流域における森林の災害防止機能の評価~森林の高齢化と気候変動による影響~」
表彰
- 最優秀賞 各セクションより1演題
- 優秀賞 各セクションより2演題
第61回治山研究発表会 審査結果
第1セクション 山地災害からの復旧対策、事前防災等における取組
- 最優秀賞
平成28年熊本地震の災害対応について
熊本県森林保全課 佐藤 博文
- 優秀賞
治山事業におけるICTの活用について
福井県坂井農林総合事務所 飯田 竜朗
災害復旧における山腹緑化工のモニタリング~竣工から5年目を迎えて~
三重県津農林水産事務所 山口 郷彬
第2セクション 調査・計画策定時の効率性向上を目指した取組
- 最優秀賞
UAV撮影画像を用いた簡易写真測量の精度向上に関する検討
福島県県中農林事務所 小椋 佳
- 優秀賞
地上から実施した集水井工(井内状況)の簡易点検について
秋田県雄勝地域振興局 渡部 祥代
秋田県雄勝地域振興局 石川 仁
森林斜面における根系効果に関する模型斜面実験について
ノンフレーム工法研究会 蓮沼 佑晃
ノンフレーム工法研究会 岩佐 直人
東京農工大学 五味 高志
東京農工大学 Rozaqqa NOVIANDI
第3セクション 施設の設計・施工等における取組
- 最優秀賞
保安林整備事業における丸太筋工の改良による負担軽減の取り組みについて
近畿中国森林管理局三重森林管理署 川上 吉伸
近畿中国森林管理局治山課 橋本 徹
- 優秀賞
軽量フレームを使用した等厚コンクリート擁壁の開発 ~間知石からコンクリートブロックへ そして、新たな工法へ~
中部森林管理局伊那谷総合治山事業所 菅野 紀子
中部森林管理局伊那谷総合治山事業所 津村 直樹
中部森林管理局伊那谷総合治山事業所 両角 和也
治山事業でのICT活用工事の導入とオンライン研修
兵庫県治山課 西村 昭彦
兵庫県治山課 円藤 洋之
第4セクション 森林の適正な利用・保全に向けた取組
- 最優秀賞
防風保安林更新に関わる課題解決に向けた取組
北海道立総合研究機構林業試験場 岩崎 健太
北海道治山課 鈴木 正則
- 優秀賞
仙台湾地区海岸防災林造成における防風垣の代替としてのヤマハンノキ混植の有用性についての検討
東北森林管理局仙台森林管理署 飯島 和博
東北森林管理局仙台森林管理署 加藤 勇哉
単木防除資材毎のシカ食害防除効果と樹種別成長量について
兵庫県治山課 坂井 加奈
兵庫県森林動物研究センター 石川 修司
兵庫県立農林水産技術総合センター 中川 湧太
兵庫県立農林水産技術総合センター 小長井 信宏
講評
- 第1セクション講評(権田審査員長)
第1セクションは「山地災害からの復旧対策、事前防災等における取組」というセッションタイトルで、10件の発表がありました。大まかに分類すると、流木対策事業に関する話題が2件、ICT技術、ドローン等の最新技術を活用した治山事業が2件、噴火・地震を誘因とする激甚災害についての対応が2件、過去の山地災害の災害記録の収集・解析・教訓の伝承の取組みが2件、世界遺産地域における落石対策、山腹保護工の長期モニタリングが各1件と、多岐にわたる内容の発表でした。いずれの発表も、しっかりと準備した上で収録されたものであったこと、それに加えて、発表の途中で動画を止めたり巻き戻したりすることが出来たこともあり、通常の口頭発表と比べると、より理解しやすかったと思います。
最優秀賞の「平成28年熊本地震の災害対応について」は、熊本地震により発生した土砂災害に対する熊本県の対応が紹介されました。様々なデータをGoogleマップに集約し現地調査の迅速化・効率化が図れたこと、復旧計画の立案にあたり、業務体制を6つの担当に分け各担当で連携をはかったことなど、さらに震災の記録・教訓を共有するための震災アーカイブの構築、研修会の開催を実施するなど、災害対応のあり方や、それらの経験・ノウハウの継承という観点からも参考になる発表でした。
優秀賞の一つ目は、「治山事業におけるICTの活用について」です。福井県の復旧治山事業においてICTを活用した事例が紹介されました。ICTを導入した利点のみならず、山間部の急傾斜地にICTを導入しようとした場合に発生する問題点を整理し、解決案を提案されており、これからICTの導入をすすめようと考えている行政機関にとっては非常に参考になる内容であったと思います。
優秀賞の二つ目は、「災害復旧における山腹緑化工のモニタリング~竣工から5年目を迎えて~」です。平成23年の台風12号による山腹崩壊後に施工された山腹緑化工について継続的にモニタリングを行った事例が紹介されました。山腹緑化工施工後の植生の変遷の実態、緑化が成功しない原因が明かにされるとともに、種の多様性という観点から獣害防護柵の設置・管理のあり方についても考察されている点が新鮮でした。
以上、表彰された3件について紹介いたしましたが、他にも優秀な発表が多く見られました。自然条件や社会条件などの制約のある課題に対して、最善な答えを見い出すべく試行錯誤されていることがよくわかりました。それらの試行錯誤の過程や得られた経験を共有・継承していくことは非常に重要だと考えます。本研究発表会を、共有・継承の場の一つとして位置づけ、今後も積極的に参加・発表いただければと思います。
- 第2セクション講評(執印審査員長)
第2セクションは「調査・計画策定時の効率性向上を目指した取組」をテーマとして全部で9件の発表がありました。全体について説明しますと、全部で9件の発表のうち近年広く導入が進んでいるUAVに関する発表が4件、治山施設に関する発表が4件、森林の山地災害防止機能の評価に関する発表が1件でした。どの発表も大変すばらしく、賞の選定にあたっては苦労いたしましたが、最優秀賞はUAVに関する発表の中から1件、優秀賞は治山施設および森林の評価に関する発表から2件が選ばれました。
まず最優秀賞は「UAV撮影画像を用いた簡易写真測量の精度向上に関する検討」です。本検討は簡易写真測量において特に課題となる高さ方向の精度について、これまでの実績を踏まえて検討されたものでした。精度を上げるためには、評定点の数を増やすなどの検討がおこなれますが、本検討においては安価なGNSS受信機の導入により評定点の数を増やすことなく精度の担保が可能であること、さらに上部植生の影響により視認できない場合においても精度の高い測量が可能であること等、今後ますます導入が進んでいくUAVによる簡易写真測量において非常に参考になる取り組みでした。
優秀賞の1つ目は「地上から実施した集水井工(井内状況)の簡易点検について」です。この発表では安全性を考慮した上での点検の有効性について、極めて創意工夫にとんだ取り組みがなされており、大変参考になる発表でした。また本検討は3次元モデルを用いた点検につながる可能性が高く将来の発展性を感じる発表でした。
優秀賞の2つ目は「森林斜面における根系効果に関する模型斜面実験について」です。森林の根系効果について古くから様々な取り組みがなされておりますが、本発表は模型斜面を用いることで降雨の斜面土層への浸透と森林の根系効果について検討されたものです。検討にあたっては模型スケールの問題が丁寧に考慮されており、学術的にも価値が高いと判断致しました。さらには気候変動を考慮した森林の災害防止機能について将来につながる可能性が高い発表であると感じた次第です。
以上簡単ではありますが選定された3点の発表について紹介いたしました。それ以外の発表も素晴らしいものでした。治山研究発表会は年に一回ですが、全国から多様な現場の課題とその解決にむけた取組みを治山技術者が一同に会して情報を共有することの大切さを実感いたしました。今後も治山技術の更なる発展のため、この場を大切にして治山事業に取り組んでいただきたいと考えます。
- 第3セクション講評(五味審査員長)
第3セクションでは、「施設の設計・施工等における取組」のテーマで、10件の発表がありました。山地斜面、渓流、海岸などのさまざまな条件における施設の設計や施工における新しい取組が紹介されました。治山事業におけるドローンやICT技術の活用に関するものが3件、新たな工法の提案や技術開発に関するものが6件、施工後の経過調査とその効果検証に関するものが1件でした。
その中で、最優秀賞は「保安林整備事業における丸太筋工の改良による負担軽減の取組について」となりました。現状の鉄線を活用した丸太筋工の施工では、鉄線の運搬や鉄線が林地に残るなどの課題があり、鉄線を使用せずかつ、現地の林地残材を活用することができる「挟み込み式丸太筋工」が提案されました。挟み込みに必要な丸太の直径や長さなどの施工のしやすさなどの検討、材料規格の提案が報告されました。また、設置後の耐久試験や表土侵食防止効果など機能評価を行うとともに、実際の保安林における施工から、施工の優位性や課題などが抽出されています。保安林における丸太筋工の多面的な検討が行われており、現場への適応性の高さや多面的な技術検証、木材利用への貢献などが高く評価され、表彰となりました。
優秀賞の1点目は、「軽量フレームを使用した等厚コンクリート擁壁の開発 ~間知石からコンクリートブロックへ そして、新たな工法へ~」です。山腹工におけるコンクリートブロックに代わり、軽量であることや木材の利用が可能であることなどを基準とした、新たな工法の提案が行われました。民間企業との協働により、軽量フレームと木材による型枠を利用したコンクリート擁壁を開発するとともに、現地施工試験と改良を繰り返すことで、地山に沿った地形への適応などの課題を克服するなど技術を確立し、施工時の課題抽出などが報告されました。工期や人材な確保などを考慮した、今後の新たな山腹工技術として期待できることから表彰となりました。
優秀賞の2点目は、「治山事業でのICT活用工事の導入とオンライン研修」です。施工プロセスにおけるICT活用工事が進められる中、その実践事例として多面的な取り組みが報告されました。3次元マシンガイダンス技術を用いた詳細技術が報告されるとともに、ICT活用工事による効率化やリアルタイムでの設計や設計の微修正での利点などが報告されました。一方、衛星を受信できない場所での適応性などの課題も丁寧に整理・報告されていました。さらに、ICT活用工事のオンライン現場研修会の実施事例が報告され、リモートライブによる機器類や施工状況の解説や質疑応答など実施の事例とともに、今後の技術者研修の在り方、録画による事後や学びなおしなど、新たな技術者育成システムとしての有効性が示されました。また、このようなオンライン研修では、通信による映像の乱れや現場の臨場感などの課題も丁寧に報告されていました。
いずれの発表も、これからの治山技術や人材育成において重要な成果を示しており、今後のさらなる技術開発が期待されるものでした。10件の発表はすべて、現場立脚型の優れた着眼点で課題抽出と技術開発が取り組まれておりました。このような知見を、技術者間で横断的に情報共有することで、多様なニーズや環境の変化に対応した技術開発につながるかと思われます。
- 第4セクション講評(堀田審査員長)
第4セクションでは「森林の適正な利用・保全に向けた取組」をテーマとして全部で11件(審査対象は10件)の研究発表が行われました。各発表においては、森林に期待される公益的な機能の維持・向上のために、どのような森林管理・整備を行うのが効果的かという視点での具体的な取り組みやその効果の検証結果が紹介されました。いずれの研究発表も高い水準にあり、順位付けは悩ましい作業でしたが、審査会での議論の結果、以下のように各賞を選出させて頂きました。
最優秀賞の「防風保安林更新に関わる課題解決に向けた取組」では、防風保安林の効果や施業方法の違いが及ぼす影響に関する実証的な検討から、パンフレットを活用した広報活動まで、多岐にわたる話題が紹介されています。そのうえで、防風保安林の更新について指定施業要件の変更まで踏み込んだ議論が展開されていますが、現状の課題分析や今後の管理手法の提案など、ち密で網羅的な検討と深い洞察に裏付けられた、非常に説得力がある内容となっています。
優秀賞となった「単木防除資材毎のシカ食害防除効果と樹種別成長量について」では、被災地での早期樹林化を目的としたシカ害防除に用いる単木防除資材の性能試験の事例が紹介されています。異なる素材、形状の資材について複数樹種を対象として実地での検証を行うにあたって、植林の目的に応じて防除資材に求められる性能が異なるという視点から、評価手法自体についても検討を行っているという点で、優れたデザインの基で実施された研究であり、得られた成果の価値も高いと言えます。
同じく優秀賞である「仙台湾地区海岸防災林造成における防風垣の代替としてのヤマハンノキ混植の有効性についての検討」では、海岸防災林における防風柵をヤマハンノキの植栽で代替することが提案されています。クロマツの成長量や生存率において両者に違いはなく、作業効率と経済性の観点からはヤマハンノキの植栽が大幅に有利であるという結果は、より海岸に近い場所での検討がさらに必要であるとは言え優れた成果です。
その他の発表も優れた示唆を示す研究ばかりでした。セクション全体を通して、地域のニーズや特徴を反映して最適な管理が行われていく、今後の日本の森林の姿が垣間見えたように思います。森林に見られる地域性や、求められる機能の多様性・多面性を考慮すれば、「森林の適正な利用・保全に向けた取組」には本質的に地域ごとに異なる「正解」がある筈です。したがって、正解に至る過程こそが重要で、それを学べる治山研究発表会は、森林の利用や保全において有用な機会と言えるでしょう。
また、表彰対象ではありませんが、林野庁治山課から「保安林・林地開発許可制度に係る手続きのオンライン化について」の紹介がありました。実効性の高い森林の利用や保全のためには手続きの効率化や簡素化は欠かせません。各発表と合わせて今後の更なる発展を期待したいと思います。
審査員
- 第1セクション 山地災害からの復旧対策、事前防災等における取組
審査員長 | 新潟大学農学部 教授 | 権田 豊 |
審査員 | 森林総合研究所森林防災研究領域 山地災害研究室長 | 岡田 康彦 |
審査員 | 林野庁治山課 山地災害対策室長 | 金谷 範導 |
- 第2セクション 調査・計画策定時の効率性向上を目指した取組
審査員長 | 九州大学農学研究院 教授 | 執印 康裕 |
審査員 | 森林総合研究所森林防災研究領域 チーム長(リスク評価担当) | 村上 亘 |
審査員 | 林野庁治山課 企画官 | 林 健二 |
- 第3セクション 施設の設計・施工等における取組
審査員長 | 東京農工大学大学院農学研究院 教授 | 五味 高志 |
審査員 | 森林総合研究所森林防災研究領域 治山研究室長 | 岡本 隆 |
審査員 | 林野庁計画課 施工企画調整室長 | 赤羽 元 |
- 第4セクション 森林の適正な利用・保全に向けた取組
審査員長 | 東京大学大学院農学生命科学研究科 准教授 | 堀田 紀文 |
審査員 | 森林総合研究所森林防災研究領域 気象害・防災林研究室長 | 野口 宏典 |
審査員 | 林野庁治山課 保安林調整官 | 諏訪 幹夫 |