2020年度開催
第60回治山研究発表会・第58回治山シンポジウム
審査結果はページ下部「第60回治山研究発表会 審査結果」に記載しています。
日時
2020年11月5日(木)~16 日(月) 発表会サイト公開期間
11月5日~9日 質問受付期間、参加者サポート窓口設置期間
11月13日~16日 回答公開期間
内容
- 特別講演
- 研究発表(治山・地すべり計画、森林造成・整備、保安林・林地開発許可制度、木材利用、環境調和、新工法、効果評価、PR等に関すること)
- 治山シンポジウム
研究発表会参加・発表申込
今年度の申込受付は終了しました。
表彰
- 最優秀賞 各セクションより1演題
- 優秀賞 各セクションより2演題
表彰結果は、開催終了後12月頃当サイトにて発表いたします。
表彰対象の方にはメールでもお知らせいたします。
第60回治山研究発表会 審査結果
第1セクション 山地災害からの復旧対策、事前防災等における取組
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最優秀賞
ドローンを活用した民国連携による取組
四国森林管理局 徳島森林管理署 敷地 友和
徳島県 東部農林水産局 亀谷 遼 -
優秀賞
福島県における個別施設計画とそれに基づく機能強化対策について
福島県 森林保全課 遠藤 普子
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優秀賞
災害時における空中写真の活用と治山ダムの効果検証
愛媛県 南予地方局 紅谷 成昭
第2セクション 調査・計画策定時の効率性向上を目指した取組
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最優秀賞
北ノ又地すべりにおける強制排水工の撤去判断について
国土防災技術株式会社 長沼 俊介
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優秀賞
炭酸カルシウムスケールによる集排水ボーリング目詰まり対策の一考察
国土防災技術株式会社 佐藤 翔汰
長野県 松本地域振興局 平井 祐樹
長野県 松本地域振興局 百瀬 直孝
国土防災技術株式会社 山田 泰弘
国土防災技術株式会社 柴崎 達也 -
優秀賞
航空レーザ測量を活用した治山計画調査と施設設計について
山梨県 中北林務環境事務所 川口 陽平
第3セクション 施設の設計・施工、木材利用等における取組
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最優秀賞
老朽化対策における現場打ち水路施工の試み
北海道 根室振興局 中野 光
北海道 根室振興局 三浦 翔弥 -
優秀賞
地すべり防止施設の施工に関する考察
(長慶平地区地すべり防止事業の事例報告)青森県 西北地域県民局 宮前 貴旭
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優秀賞
治山事業地におけるシカ被害対策の実証試験
関東森林管理局治山課 丸山 寿隆
第4セクション 保安林・林地開発許可制度の運用、森林造成における取組
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最優秀賞
施工方法の異なる生育基盤盛土に植栽された苗木の初期成長
岩手県 林業技術センター 村上 尚徳
岩手県 大船渡農林振興センター 新井 隆介
岩手県 林業技術センター 小岩 俊行
岩手県 林業技術センター 丹羽 花恵 -
優秀賞
新潟県柏崎市松波地区における在来植物を用いた人工砂丘の緑化について
新潟県 長岡地域振興局 山田 茜
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優秀賞
林地開発行為中の災害発生の事例と再発防止の取組について
長崎県 林政課 前田 学
各セクションの講評
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第1セクション講評(地頭薗審査員長)
第1セクションの発表は10件でした。まず、セクション全体について説明しますと、発表内容は近年の豪雨等による山地災害の実態・特徴・復旧、流木対策、ドローン等の最新技術を活用した山地災害調査、治山施設の長寿命化、山地災害の教訓伝承の取組みなど多岐にわたる分野の発表がありました。治山の現場は非常に多様で地域性があり、さらに近年の記録的な大雨による山地災害の増加、治山施設等の長寿命化計画など、さまざまな対応が求められています。10件の発表はどれも素晴らしく、賞を選ぶのに苦労しました。
まず、最優秀賞の「ドローンを活用した民国連携による取組」は、地方自治体と森林管理局が連携して、ドローン等の最新技術を用いて山地災害発生時に、位置や規模、被害状況等を把握する取組みの発表でした。どの機関も職員が減少する中で民有林と国有林の担当者が連携する体制整備の提案は重要であり、さらに、技術継承や人材育成という点でも参考になる発表でした。
優秀賞の一つ目は、「福島県における個別施設計画とそれに基づく機能強化対策について」です。福島県におけるインフラ長寿命化計画に基づく治山施設の点検と機能強化対策の方法等が具体的に紹介されました。インフラ長寿命化は各機関で今後重要な課題となると思いますから是非参考にしていただきたいと思います。
優秀賞の二つ目は、「災害時における空中写真の活用と治山ダムの効果検証」です。平成30年7月豪雨による山地災害の対応の際、現地調査が困難な個所は空中写真を活用して被害状況を把握した事例が紹介され、さらに治山ダムの効果の検証にも有効であったことが示されました。
以上、表彰された3件を紹介しましたが、他にも優秀な発表が沢山ありました。最近の記録的な大雨により、山地災害は大規模化、複雑化しています。そういった中で、森林管理署、地方自治体、民間企業、地域住民が連携しながら取り組んでいることが今回の発表の中でいくつも紹介されました。これは非常に喜ばしいことであり、重要なことだと思います。山を治める者として現場で学び、その結果を現場に返す。今後とも、そういった姿勢を忘れずに治山事業を進めていただきたいと思います。
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第2セクション講評(執印審査員長)
第2セクションは「調査・計画策定時の効率性向上を目指した取組」をテーマとして全部で9件の発表がありました。ここで「効率性向上」という言葉には必要とされる作業量に対する時間的な効率という観点はもちろんの事、施工された対策の有効性を高めることにより、その後の施設維持にかかる手間を減らす効率性の向上という意味も含んでいることを今回の発表から改めて勉強させていただきました。発表9件のうち時間的な効率性を中心に検討されたものが5件、対策の有効性という観点から検討されたものが4件でした。
まず最優秀賞の「北ノ又地すべりにおける強制排水工の撤去判断について」ですが、これは、地すべり対策工に対して、応急対策工の有効性と撤去時期について発表されたものです。本発表はこれまで撤去判断の明確な基準が確立されていない強制排水工について検討されたもので、他の地域においても非常に参考になる取組みであると感じました。
優秀賞の1つ目は「炭酸カルシウムスケールによる集排水ボーリング目詰まり対策の一考察」です。これも対策の有効性という観点からのものになります。この発表では鉄細菌スケールによる目詰まりへの対策に加えて、現地で問題となっている炭酸カルシウムスケールによるに対策」について学術的に知見を踏まえて検討されたものとなっています。学術的知見を如何に現場の地すべり対策に反映させるかいう点で大変参考になる発表でした。
優秀賞の2つ目は「航空レ-ザ測量を活用した治山計画調査と施設設計について」です。最近では当たり前のように、ドローンや航空機レーザー測量を活用した治山調査が実施されていますが、施設設計にまで踏み込んだ内容は、新たな技術の発展を大いに期待されるものでした。さらに調査設計だけなく将来的なICT工法について検討されており、将来において新技術を如何にして活用していくかという観点から大変な参考になる発表でした。
以上簡単ではありますが選定された3点の発表について紹介いたしました。当然ですがそれ以外の発表も素晴らしいものでしたので選定に苦労したことは事実です。治山研究発表会は年に一回ですが、全国から多様な現場の課題とその解決にむけた取組みを治山技術者が一同に会して情報を共有することの大切さを本当に実感した次第です。今後も治山技術の更なる発展のためこの場を大切にしたいと思います。
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第3セクション講評(小林審査員長)
第3セクションでは、施設の設計・施工、木材利用等の取組に関する発表が9件ありました。施設の長寿命化対策に関する発表が3件、治山の新しい技術に関わる発表が4件、獣害や生物多様性配慮に関する工法が2件でした。このうち、施設の長寿命化対策に関わる発表2件が最優秀賞と優秀賞に選ばれました。いずれも治山施設の施工や機能維持における全国的な課題に対して、従来手法との比較検討や試験を行い実現性が高い技術を具体的に示したということが共通して評価されました。
最優秀賞に選ばれた「老朽化対策における現場打ち水路施工の試み」は、従来、新材との交換による水路工損傷対策で課題であった作業性や安全性の向上に向けて、現場型枠とコンクリート吹付による新たな補修方法を検討し試験したものです。豪雨災害が各地で発生する中、水路工は治山上重要な施設となっています。全国各地に設置された水路工の機能維持を安全にかつ比較的に安価に行うことが広く求められる中で、本研究が具体的に実効可能性の高い技術として高く評価されました。
優秀賞に選ばれた「地すべり防止施設の施工に関する考察」は、地すべり対策工である集排水施設の施設点検を前提とした設計施工の留意点をまとめた研究です。地すべり対策工の集排水施設は時間の経過と伴に閉塞等の機能劣化が起きることがあるため、機能維持のための定期的な点検による状況把握が重要になります。本研究では実現可能で効果の高い点検方法を示しており、普及性が高いものとして選出されました。
もう一つの優秀賞には、全国各地で対応に苦慮している緑化植栽地のシカ被害に対して、異なる対策マットの比較試験を行った「治山事業地におけるシカ被害対策の実証試験」が選ばれました。シカ食害対策としてシカ柵以外の技術開発の積極的な取組であり、今後の発展が期待される研究として選出されました。
今回選出された研究以外にも、注目すべき着目点を持った研究課題がいくつも見られるなど、技術開発への熱心な取組が感じられました。これまで取り組まれた技術開発研究を更に進めて、広く普及できる領域にまで高めていただき、報告がなされることを期待しております。
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第4セクション講評(小杉審査員長)
第4セクションは、「保安林・林地開発許可制度の運用、森林造成における取組」ということで、9件の発表がありました。このうち、森林造成に関するものが5件(うち海岸防災林に関するもの4件、崩壊跡地の緑化に関するもの1件)、保安林・林地開発許可制度に関するものが4件(うち保安林に関するもの2件、林地開発許可制度に関するもの2件)でした。
最優秀賞は、「施工方法の異なる生育基盤盛土に植栽された苗木の初期成長」です。東日本大震災で被災した岩手県の海岸防災林の再生事業において、様々な施工方法の生育基盤盛土上での苗木の初期成長を詳細に調査し比較検討されたものです。多くの生育基盤盛土工法を、元の地盤との関係も含めて調査された結果は、重要な情報源になることが期待されます。今回調査された初期成長に関しては、盛土客土施工が優位であったものの、長期的視点では、目標とする根系発達の深さまで難透水層を生じさせないことが重要であるため、どの施工法が最適かについて今後も長期的に調査する必要があると考えられている点も、理にかなっています。今後の検証結果も期待しての表彰となりました。
優秀賞の一つ目は、「新潟県柏崎市松波地区における在来植物を用いた人工砂丘の緑化について」です。在来植物のランナーや埋土種子を含む表土を利用した人工砂丘の緑化誘導工の効果を、2年間追跡調査した結果について報告されました。施工後の植生調査による種数・種構成の推移、また発表時には詳細が省かれたマット状植生基盤工の効果についても多くのデータを取られており、工法の検証に科学的に取り組まれている点が評価されました。
優秀賞の二つ目は、「林地開発行為中の災害発生の事例と再発防止の取組について」です。長崎県農林部林政課において、太陽光発電施設設置工事中の土砂流出・濁水発生事案に対処される中で、許可後の開発段階での現場状況把握や開発事業者への指導の体制を新たに構築し、審査段階でのチェックも強化されるなど、積極的に新たな対応方針を打ち出して取り組んでおられる点は、他県もおおいに参考になるところかと思います。
太陽光発電にかかる林地開発行為では、各地で様々な問題が起こっています。表彰の対象外ですが、今回は、林野庁治山課から、太陽光発電に係る林地開発許可基準の整備についても報告がありました。非常に重要な取りまとめがなされたと考えています。各都道府県においても、現状を踏まえた新しい基準の早急な整備をお願いしたいと思います。
今回表彰された3件の他にも優秀な発表が沢山ありました。海岸防災林や崩壊跡地緑化などの森林造成においては、長年にわたる追跡調査をベースにした科学的データに基づく比較検討が今後重要な意味を持ってくると考えられます。また保安林・林地開発許可制度の運用に関しては、個々の事例に対する各都道府県におけるきめ細かい対応と併せて、他県における運用なども含め積極的に情報収集・交換を行っていくことで、よりよい制度運用に繋がるものと思われます。この治山研究発表会が、今後もそのような場のひとつとして役立っていくことを期待します。
第60回治山研究発表会(R2.11.5~16)各セクション審査員
- 第1セクション「山地災害からの復旧対策、事前防災等における取組」
審査員長 鹿児島大学学長補佐(防災担当) 教授 地頭薗 隆 森林総合研究所 森林防災研究領域
チーム長(リスク評価担当)村上 亘 林野庁治山課山地災害対策室長 金谷 範導 - 第2セクション「調査・計画策定時の効率性向上を目指した取組」
審査員長 宇都宮大学農学部森林科学科 教授 執印 康裕 森林総合研究所 森林防災研究領域
山地災害研究室長岡本 隆 林野庁治山課企画官 松山 康治 - 第3セクション「施設の設計・施工、木材利用等における取組」
審査員長 千葉大学大学院園芸学研究科 教授 小林 達明 森林総合研究所 森林防災研究領域
治山研究室長浅野 志穂 林野庁計画課施工企画調整室長 赤羽 元 - 第4セクション「保安林・林地開発許可制度の運用、森林造成における取組」
審査員長 京都大学大学院農学研究科 教授 小杉 緑子 森林総合研究所 森林防災研究領域
気象害・防災林研究室長野口 宏典 林野庁治山課保安林調整官 井口 英道